4月は自宅で歌舞伎が観られる、千載一遇の大チャンス!【コロナに負けるな! いまだからできること #8】
人通りの少ない東銀座を歩いていると、看板やポスターが取り払われた歌舞伎座が見えた。2020年3月、4月の歌舞伎はもちろん、5月から7月にかけて予定されていた歌舞伎界の一大イベント、市川海老蔵の團十郎白猿襲名興行まで延期となってしまった。歌舞伎座だけでなくその他の劇場も公演を見合わせている。月に一度は歌舞伎を観に行く自分には、寂しいことこの上ない状況だ。
このような中、歌舞伎公演を手がける松竹、国立劇場が粋な計らいを見せた。公演中止となってしまった3月の各劇場の演目を無観客で上演、期間限定でYouTubeにアップし、無料で観られるようにしたのだ。歌舞伎ファンにとってうれしいのはもちろんだが、「歌舞伎を観てみたい」という初心者にもいい入り口になるだろう。
ちょっとお高めに感じるチケット料金を気にしなくていいし、長い公演も一時停止しながら自分のペースで観られる。わからない台詞や気になる俳優が出てきたら、そのつどスマホで確認すればいい。
それぞれ公式ページにあらすじや見どころは出ているから、高校時代の古文の授業を思い出しながら台詞を追えば、場面は十分理解できる。その上で衣装や背景、役者の所作や表情を見ているうち、自ずと時代を超越した世界に引き込まれていくだろう。
江戸時代から変わらない人間の機微。現代性を取り入れ進化してきた「伝統と革新」という歴史。ハードルが高いと思って手を出しかねていたのなら、この機会にぜひ触れてみてほしい。閲覧可能な期間が短い演目もあるので、気になる演目はすぐに観ることをお薦めする。
ただ、そうして自宅にて映像で歌舞伎を堪能はしながらも、本音ではやはり劇場の空気に包まれたいと思ってしまう。花道があることで舞台と客席は地続きになり、役者の息づかいがこちらまで届く。江戸の昔から現代まで、役者から役者へと伝わり、発展してきた所作、踊り、台詞、演技は、圧倒的なパワーでこちらを包み込んでいく。また舞台の幕が開く時、ぜひその空気を劇場で味わってほしい。(編集YK)
国立劇場『義経千本桜』 ※4月30日(木)15時まで(予定)
『義経千本桜』は、平家追討を果たした源義経が兄・頼朝に疎まれ都落ちをする史実をベースに、生き延びた平家の残党の悲哀、義経の愛妾・静御前が持つ鼓を追いかける狐の運命が絡まり合う物語。各段、主役を務めるのは、昨年末に「風の谷のナウシカ」を歌舞伎化したことでも記憶に新しい尾上菊之助。佐藤忠信、源九郎狐、平知盛、いがみの権太という、身分も性格も違う役柄を見事に演じ分ける様子に注目してほしい。
〈「国立劇場」公式YouTubeチャンネル〉https://www.youtube.com/c/NationalTheatreTokyo
京都南座 スーパー歌舞伎Ⅱ『新版 オグリ』 ※4月19日(日)23時59分まで。
「歌舞伎の現代性」を語る上で欠かせないのがスーパー歌舞伎だ。古典歌舞伎の技法を踏襲しつつ、「真に現代人の胸に迫る物語性」を追求、現在は四代目猿之助がスーパー歌舞伎Ⅱとして新しい舞台をつくり出している。仏教を広めるために口演された「説教節」の題材「小栗判官」を下敷きに、人の多様性を認め、自由を勝ち取り、理想と幸せを追い求めることの美しさを描き切った。ド派手な舞台演出や、現代的な台詞回し、視聴者も参加できるエンディングなど、初心者が最も親しみやすい舞台だろう。
歌舞伎座 『三月大歌舞伎』 ※4/26(日)24時59分まで
2020年4月26日まで公開中。昼の部には中村吉右衛門、片岡仁左衛門、中村梅玉、夜の部には松本白鸚ら、現代の歌舞伎界を代表する面々が揃い踏み。バラエティに富んだ演目を見られるのも歌舞伎座公演の醍醐味だ。江戸狂言の楽しみをじっくりと味わいたい。